「暮らし」という言葉は、日常生活や日々の営みを指す言葉です。具体的には、住む場所や食事、仕事、家族との時間など、人が日々の生活を送るために行うすべてのことを含みます。
日本語で「暮らし」という言葉を使うときは、単なる物質的な側面だけでなく、心の満足や生活の質、幸福感なども含めて、広い意味での日常のあり方を表現することが多いですね。人生も、「暮らし」に関連される言葉になるようです。
「住まい」という言葉を使う際には、居住している場所そのものに対する思いや、そこに住むことで得られる安心感や快適さといった感情も含まれることが多いです。
たとえば、「心地よい住まい」や「住まいを整える」といった表現は、単に建物だけでなく、その場所での暮らしや快適さを大切にする意味合いが込められています。
古い賃貸住宅に住むことには多くの魅力と課題がありますが、それを楽しみながら快適に生活する方法もたくさんあります。
「ルームツアー」とは、自分の部屋や家の内部を紹介することを指します。特にSNSやYouTubeでよく使われる言葉で、視聴者に向けて部屋の間取りや家具の配置、インテリア、収納方法、生活感やこだわりポイントなどを見せる動画や記事のことです。このブログでは、「ルームツアー」を動画で紹介しています。
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🌿 短編ロマンス小説
『ポジャギ越しの午後-「改訂版」』(別編)
鎌倉の路地裏を抜けた先に、古い木造の建物があった。
看板には「家具と灯り nord」とある。白いペンキがところどころ剥がれた木の扉は、年月を経た手触りを残していて、初めて訪れるのに、どこか懐かしい。
佐伯直人は、扉を押しながら小さく息を吐いた。
春の風が背中を押すように吹き込み、カランと小さなベルが鳴った。
店内には、古い木の匂いが漂っている。
並ぶのは北欧のチェアや日本製の古道具、真鍮の照明。陽だまりの中で、どの家具も少しだけ誇らしげに見えた。
――あの頃のオフィスとは、まるで違う。
整然と並べられたカタログの世界から、手の温もりが残る現実へ。
「いらっしゃいませ」
声に振り向くと、切れ長の瞳をした女性が立っていた。
すっきりしたボブカット。少し驚いたように目を瞬かせ、それから穏やかに微笑んだ。
「何かお探しですか？」
直人は少し考えてから答えた。
「引っ越しを予定していて、ダイニング用のテーブルを探しています。できれば、長く使えるものを」
彼女は静かに頷き、足元をすべらせるように歩いた。
「でしたら、こちらへどうぞ」
案内されたのは、円形のヴィンテージテーブル。
チーク材の木目が柔らかく光を返す。中央には淡いガラスの花器にドライフラワーが挿してあり、無言の時間がゆっくり流れた。
「このテーブル、少し傷がありますが……それも魅力です。前の持ち主が長く使っていた証ですから」
そう言う彼女の声は、木の肌を撫でるように柔らかかった。
「傷がある方が、いいかもしれませんね」
直人が言うと、彼女は微笑んだ。
「そう思える人が好きです」
その言葉に、心が少しだけ温かくなった。
――こういう出会い方もあるのか。
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チーク材の円卓は、やがて彼の新居に運び込まれた。
チークの無垢フローリングと同じ色味の床の上で、部屋全体が静かに息づいているようだった。壁と天井は白いクロス張りで、ほんのりとした凹凸が陽の光を柔らかく散らしていた。
そして窓には、韓国の伝統的な風呂敷――ポジャギがカーテン代わりに掛けられた。
太陽光を透かして揺れる布が、部屋にやさしい影をつくる。
その揺らめきを見ていると、不思議と心が落ち着いた。
思えば二年前。
直人は中堅のインテリアデザイン事務所を辞め、独立を選んだ。
安定した職を捨てるという決断に、当時の恋人はついてこられなかった。
「不安定な人とは、一緒にいられない」と言われ、別れた夜。
机の上に残されたコーヒーカップの跡を、直人はしばらく見つめていた。
――あのときの僕は、まだ自由の意味を知らなかった。
フリーランスとしての生活は、静かで、孤独だった。
でも今、この部屋には灯りがある。
あの店で出会った、あの人の言葉が、どこかに残っている。
数週間後。
家具店「nord」を再び訪れた。
「こんにちは。あの……また見せてもらってもいいですか」
「もちろんです。テーブルの具合はいかがですか？」
「ええ。あのテーブルがあるだけで、部屋が落ち着きました」
「そうですか。家具が居場所をつくることって、ありますよね」
川口沙耶はそう言って、ふと目を細めた。
その表情に、彼女の中の静かな情熱を感じた。
家具への信念、時間を積み重ねることへの敬意。
「……あなたの部屋、見てみたくなりますね」
「え？」
「テーブルがどんな空間に似合っているのか、気になって」
それは、ごく自然な言葉のようでいて、どこか誘いのようにも聞こえた。
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そして数日後、彼女は直人の部屋を訪れた。
玄関を上がると、チークの床が静かに軋む。
白い壁と、光を透かすポジャギのカーテン。
窓際にはエバーフレッシュの柔らかな葉が揺れ、円形のテーブルが陽射しを受けていた。
「……すてきですね」
沙耶はそう呟き、手を伸ばしてテーブルの縁をなぞった。
「まるで、この部屋のために生まれたみたい」
「そう言ってもらえると、報われます」
直人は笑いながら、コーヒーを淹れた。
「この部屋に越してきてから、ようやく“自分の時間”を取り戻せた気がして」
「その時間を、どう過ごしているんですか？」
「家具を眺めたり、照明の配置を変えたり……くだらないですよね」
「くだらなくないです。そういう時間こそ、暮らしの核だと思います」
沙耶の声は、まるで春の午後の陽だまりのようだった。
ポジャギ越しの光が彼女の頬に淡い影を落とし、ふとした瞬間、彼女の横顔に過去の恋人の面影を探している自分に気づいた。
けれど、その錯覚はすぐに消えた。
沙耶の静かな瞳は、もう別の未来を見ている。
「直人さん」
彼女が初めて名前を呼んだ。
その響きに、胸の奥で何かがほどけた。
「はい」
「家具って、使う人の時間を受け止めて、少しずつ表情が変わるんです。
あなたも、きっとそういう人なんでしょうね」
直人は言葉に詰まった。
自分が何を答えるべきか分からなかった。
ただ、部屋に差し込む光が二人の間に溶け込み、言葉の代わりに静けさがあった。
外では、風がエバーフレッシュの葉を揺らしている。
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夕方。
沙耶が帰り支度を整えるとき、窓辺の光が少し赤みを帯びた。
「また、来てもいいですか？」
その声には、かすかなためらいと期待が混じっていた。
「もちろん。今度は、照明の相談でもしましょうか」
「ええ。あなたの部屋の灯り、もう少し見てみたいので」
そう言って、沙耶は笑った。
ポジャギ越しの光の向こうで、その笑顔が柔らかく滲んだ。
扉が閉まる音のあと、直人はしばらく立ち尽くしていた。
静まり返った部屋の中で、心だけが穏やかに動いている。
――もう、孤独ではないかもしれない。
ポジャギの布がふわりと揺れた。
その向こうにある未来は、まだ形を持たない。
けれど、確かに何かが始まりつつあった。
（了）
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【あとがき風の解説】
本作『ポジャギ越しの午後』は、
「暮らし」「家具」「光」といった静かなモチーフの中に、
人と人との心の距離の“変化”を描いた掌編ロマンスです。
主人公・佐伯直人が過去の痛みから立ち上がり、
川口沙耶という女性を通して“時間を積み重ねることの美しさ”に気づくまでの、
穏やかで静かな再生の物語。
ポジャギ越しの光は、“境界を透かして未来を映す”象徴です。
それは「過去と未来」「孤独とつながり」「個と共有」を隔てながらも結ぶものとして、
二人の心をやさしく照らしています。
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